障害者にとって仕事は「生きるよろこび」 ─ 引佐草の根作業所(5)

「障害者の働く現場シリーズ」第1弾は静岡県浜松市にある「草の根作業所」様のインタビューをお聴きいただいています。前回は草の根作業所で製作した製品をどうやって売っているのか、「販路」についてお話いただきましたが、今回のインタビューは、そうやって製造・販売したり、下請け仕事をしている利用者の方々がどうやって仕事に向き合っているのか、お話いただきました。

作業の割り振りは「まずは利用者がやってみたいことをやってもらう」

会社に就職すると、仕事として自分のやりたい希望を言ってみるものの、それを受け入れてもらえるかどうかは会社次第というのが一般的でしょう。

入社したタイミングで希望する仕事に就ければラッキーと言えますが、ほとんどは本人の希望よりも会社や組織の都合が優先されます。それでも給料をもらう以上、どんなに不本意であっても辞令を受け入れるのがサラリーマンの在り方といったところでしょうか・・・

一方、作業所の場合はどうも違うようです。今回の田中施設長の話を聞くと、利用者の方々への仕事の割り振りは、まずは利用者本人の希望を聞くところから始めるそうです。ここまでは一般企業とさほど変わらないと思いますが、大きく異なるのは、利用者のその希望を作業所は100%受け入れている点です。

ただ、最初からうまく作業できる人はいないので、実際に利用者にやってもらい、職員がその様子をみながらサポートに入るのですが、その時職員はどうやったら利用者の方に希望の仕事ができるようになってもらえるのかに重きをおいているそうです。

こういった作業所の姿勢を見ると、一般企業と作業所では仕事への向き合い方が真逆というのがわかります。一般企業では、従業員は組織の都合で仕事を割り当てられ、希望にそぐわない場合でもそこに自分を合わせていくのがほとんどかと思いますが、作業所の場合、利用者は「自分のやりたいこと」を毎日やることになり、それがすなわち仕事ということになります。

仕事に期限は設けない

希望の仕事をすることで生産性や成果に直結できるのが理想ですが、健常者も障害者もやはり人間なので、気持ちはやりたくてしょうがないけれども、うまくできないことは多々あります。ポッドキャストの番組内でもよく野球に譬えますが、いくら野球が好きでも、ホームランバッターになるにはそれなりに練習が必要です。

特に障害者の方ですと、その日によって体調が安定しない時もあることから、職員側で例えばこの製品を作るのにどのくらいの工数をかければ良いのかを予測するのが難しいようです。

この点について、今回も行間ラジオに出演いただいている舩越貴久さん(以後ふなちゃ)から、ご自身の「やさしい草とりサービス」での経験を交えて詳しくお話しいただきました。

ふなちゃは造園業を営まれていますが、通常、お客様の植木の手入れをする際は、現場を見て費用やスケジュールを見積り、訪問日時を伝える形で業務を行っています。

一方、作業所と一緒にやっている「やさしい草とりサービス」の場合、お客様には「だいたいいつぐらいにうかがいます」と、訪問日をゆるくお伝えするそうです。というのも、作業できるかどうかは、実際に現場に出ていただく障害者の方の体調次第だからです。

普通「お金を出すのはお客さんなのに、なんで作業する側に都合に合わせなきゃいけないんだ!?」となると思います。しかし「やさしい草とりサービス」に申し込んでくださる方々は、番組内でふなちゃが「双方のバランス」と表現されているように、障害者のペースをご理解いただいた上でみなさん草取りを依頼してくれるそうです。

草の根作業所の田中施設長もインタビューの中で「期限は設けていない」と言われていましたが、仕事をする上で常に利用者を軸として考え、それぞれが働くペースに合わせて生産をし、そこにクライアントも理解を示す、そういった流れの中で作業所の仕事が成立しているのがわかります。

障害者は「はたらくこと=よろこび」

こんな風に利用者のペースに理解を示しながら作業所と取引してくれる企業が増えればとても嬉しいのですが、実際にはまだまだ時間がかかるような気がしています。

この記事を配信するタイミングでは、新型コロナウィルスの感染拡大で東京都には緊急事態宣言が発令され、不要不急の外出を控えたり、可能な限りテレワークに切り替えるなど、政府や自治体から数々の指示が出ています。

しかしながら、テレワークに切り替えるかどうかは個人ではなく会社の判断に委ねられているため、この状況下で通勤している人の中で、自分自身の感染リスク、そして家族への感染リスクを頭の片隅で気にしながらも、仕事のためと割り切って電車に乗られている方は多いでしょう。

そうまでしてなぜ働くのか・・・その質問に対する答えは行きつくところ「お金をもらうため」がほとんどだと思います。そしてそういう思考が蔓延している中で、舩越さんが訪問日を伝える際の「だいたいこのくらい」を許容する社会にはまだ遠いような気がしています。

作業所は、利用者の方に「はたらくよろこび」を感じてもらいながら、自分で作ったものを実際に使ってもらい、「ありがとう」という言葉を通じて社会の中での存在意義を感じ取ってもらうことを目指しています。この時、利用者にとっての報酬は「はたらくこと」そのものであり、「ありがとう」という感謝の気持ちです。

一方、今の一般企業ではよほど資金の余裕がない限り、生産性や成果を考えず、期限をもうけない仕事はありえません。組織が大きくなればなるほど自分がプロジェクトのどの部分に貢献しているのかも把握しにくく、流れ作業などでも日々単調な作業に人生を費やしている人も大勢います。さらに消費者との直接の接点はありえず、製品の売上によって自身の成果が把握できる状況となり、社員にとっての報酬はすべて「お金」という単位に換算されてしまいます。

実はこの「はたらく」ということへの向き合い方の違いが、障害者が一般雇用になった際、同じ職場の健常者との間に大きな溝として横たわっていると感じています。日本人サラリーマンの仕事に対するモチベーションの低さは世界的にも有名なようですが、健常者自身が仕事に生きがいを感じられない仕事なのに、新しく雇った障害者に、それをどのように伝えればはたらくよろこびを感じてもらえるのか、とてもちぐはぐな状況に見えてしまいます。

世界の先進国がSDGsへの取り組みを謳う中、日本がそれを無視して経済活動・社会活動を続ければ、完全に世界に取り残されることになるでしょう。「障害者の雇用なんて気にしなくても、自分が食べていければいいそれでじゃん」ではすまされない世の中がいずれくると思います。今回の行間ラジオの後半では、そのあたりについてふなちゃと深掘りしていますので、ぜひお聴きください。

今回の「行間ラジオ」は・・・

  • 作業の割り振りは、まずは利用者の「やってみたい」を尊重
  • (納期のような)しっかりした期日があるわけではない
  • 職員は育成方法を組み立てる
  • 利用者の集中力はすごく、「職人技」
  • 縫製品のバリエーションを増やしつつ、次を考える

「行間ラジオ」をお聴きいただくには

次の3つの方法でお聴きいただくことができます。

  • 本ページの最初の画像の下にある音声プレーヤーを使ってお聴きいただくことができます。
  • iPhoneをお持ちの方は、ポッドキャストアプリより「行間ラジオ」で検索し、購読いただくと、更新される度に番組をお聴きいただくことができます(Apple内のPodcastサービスはこちら»)。
  • Spotifyをご利用されている方は、こちらよりお聴きいただくことができます。

関連する記事